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ドアを開け放したまま (6月25日 10時)

君は人を捜している。いつだって君は人を捜している。スピーカーからのノイズは君の耳にまだ届いているけれど、一歩一歩遠ざかるにしたがって、その音も小さくなっていく。
 遠ざかるノイズの中に一瞬、君は小さく波の音を聴く。
 その時、君に音が届いた。
 フル・ボリュームで鳴り渡るビリー・ボーン楽団の『浪路はるかに』。
 ノイズを流し続けていたはずの君のカー・オーディオが、突然息を吹き返したのだ。
 君は後ろを振り向く。
 君は立ちすくむ。
 ブラス・セクションの派手な音を身体いっぱいに浴びながら、君は、君の視界にあるものすべての輪郭があいまいになり、ぼんやりとにじんでいくのに気がつく。君の中のものが、急に溶け始める。溶けたものが目頭を経由して頬に熱く伝わるのを、君は感じる。レストランを出ようとしたカップルが不思議そうに君を見ているけれど、君は気づかない。
 輪郭を失っていく視界の中で、その自動車の丸いヘッド・ライトが点灯されるのを、君はかろうじて感じとる。自動車に乗っているのが誰なのかを確かめるために、君は一歩、二歩と、ヘッド・ライトの光に照らし出されながら、アスファルトを踏みしめるようにして歩きだす。光の輪が、だんだんと大きくなる。
 どこかで、こちらに向かってカメラのストロボが焚かれたような気が、君にはした。


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