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巨大なアンテナ (6月25日 10時)
どこかナイーブな表情を感じさせ、まだ見たことのない外洋に向けて出航していこうとするこの、船のような、巨大な機械のような建物が、あたりに向かってちょっとはにかんでいるように、僕には見えた。
僕はあの、船のような建物に乗ろう。そしてそれを僕のラジオ局にして、弓子を探す電波を発信させよう。この町のどこかにいるはずの弓子。この町を、どこかから僕と一緒に見ているはずの弓子。その弓子が聴いているかもしれないラジオに向けて、僕は直接語りかけよう。
夏の終わりの太陽はすでに中天に達しようとしていて、その船のような建物と屋上の巨大なアンテナはほとんど地上に投げかける影もない。アンテナから発信される電波は何にも邪魔されることなく、弓子に届くはずだ。僕は破れたシャツを引きちぎり、ゴムと布の固まりでしかない運動靴を足もとからもぎ取るようにして道に捨てた。火傷の傷に太陽の熱が直接当たり、焼け付くような痛みが全身を走る。アスファルトの焦げた感触を裸の足の裏で踏みしめながら、僕は夢の都市の方に向かう。もし僕の頭の中で考えていることが誰かに見られたとしたら、僕の重荷を背負って歩く僕の夢が思想として暴露されたら、僕はおそらく……でもいいんだよ、ビッグママ。それが今の僕なんだし、他には何もないんだ。僕は僕の重荷に耐えるために僕のラジオを始めなくてはならない。そして弓子の後ろ姿を、どこかで必ず見つけなくてはならない。