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ネクタイ (7月2日 0時)

縁側では、子供が葉子に買ってもらった、仏蘭西製の派手なネクタイを外光に透かして見ていた。
 学校が休みになると、子供は挙って海へ行った。瑠美子も仲間に加わらせた。
 読んだり書いたり、映画を見たりレコオドを聴いたり、晩は晩で通りの夜店を見に行ったり、時とすると上野辺まで散歩したり――しかしこの生活がいつまで続くかという不安もあって……続けば続く場合の不安もあって、庸三の心はとかく怯えがちであった。すべての人生劇にとっても、困難なのはいずれ大詰の一幕で、歴史への裁断のように見通しはつきにくいのであった。それに庸三は、すべての現象をとかく無限への延長に委かせがちであった。
 八月の末に、葉子は瑠美子を海岸から呼び迎えて、一緒に田舎へ立って行った。母の手紙によって、瑠美子の妹も弟も、継母の手から取り戻せそうだということが解ったからであった。二人を上野駅に見送ってしまうと、庸三はその瞬間ちょっとほっとするのだったが、また旧の真空に復ったような気持で、侘しさが襲いかかって来た。
「先生にもう一度来てもらいますわ。その代り私がお報らせするまで待ってね。いい時期に手紙あげますわ。」
 そうは言っても、葉子は夏中彼の傍に本当に落ち着いていたわけではなかった。何も仕出来しはしなかったが、庸三に打ち明けることのできない、打ち明けてもどうにもならない悩みを悩み通していた。彼女は自身の文学の慾求に燃えていたが、生活も持たなければならなかった。瑠美子への矜りも大切であった。最初のころから見ると、著しい生活条件の変化もあった。

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