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犬 (6月25日 4時)

不思議もないので、換言すれば下等な生物になればなる程……耳や鼻や口がなくなって、五官の活用がなくなればなくなる程……第六感ばかりで生活している事になる訳である。
 だから人間の中でも文化程度の低いものほど「第六感」が発達している理由がよくわかって来る。野蛮人は磁石なしに方角を知り、バロメーターなしに悪天候を前知する。又は敵の逃げた方向を察し獲物の潜伏所を直覚するなぞ、その第六感の活用は驚くべきものがある。これは我々文明人が、あまりに眼とか耳とかいう五官の活用に信頼し過ぎたり、理詰めの器械を迷信し過ぎたりするために、この非常に貴い、この上もなく明白な「天賦の能力」を忘れているからで、一つは近頃の世の中が、あまりに科学や常識を尚ぶために、人間の頭が悪く理窟で固まってしまって「神秘」とか「不思議」とか「超自然」とかいう理窟に当て箝まらない事を片端から軽蔑して罵倒してしまうのを、文明人の名誉か何ぞのように心得ているために、このような大きな自然界の事実を見落しているものと思う。
 その証拠にはこの問題を普通の人に持ちかけると皆、符節を合わせたように同じ返事をする。
「それは特に貴下のような特別の職業に従事している人に限って発達している一種の能力で、我々は及びもつかぬ事でしょう」
 と云う。そこで私が追っ蒐けて、
「いやそうでないのです。凡ての生命あるものは皆、この能力を持っているものです。私共にだけあって貴方がたにないという理窟はありませぬ。この宇宙間には眼で見え、耳で聞え、鼻に匂い、舌で味われ、手で触れられるもの以外に、まだまだ沢山の感じられ得るものがあるのです。

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