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彼女の心を傷つける (3月26日 21時)

彼は今更こんなことを言い出して、彼女の心を傷つけるに忍びなかった。もし又それほどに自分を思っていないとしたら、なまじいのことを言い出して、彼女の冷たい心の底を見せつけられるのも怖ろしかった。彼は男らしくないということを十分に意識していながらも、八橋に対しては、どうしても男らしい態度を取り得なかった。
 今夜は酒を飲んでもいい心持ちに酔えなかった。ほかに二、三人の客がはいって来て、何かいそがしそうに話していたが、それも次郎左衛門の耳へははいらなかった。彼は自分でも不思議なくらいに今夜は寂しく感じた。それはなぜだか判らなかった。
 彼は子供の時のことをふと思い出した。それは歳暮にでも持って行くらしい紙鳶をぶらさげた職人の客がはいって来たからであった。彼は故郷の広い野原で紙鳶をあげた昔の春がそぞろに恋しくなった。その頃の喧嘩友達の名なども急に思い出された。

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