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押入を開けると (3月12日 11時)
そこには隣家の灯影が差していたこと、行くとすぐ、そっくり東京のデパアトで誂えた支度が、葉子も納得のうえで質屋へ搬ばれてしまったこと、やっと一つ整理がついたと思うと、後からまた別口の負債が出て来たりして、二日がかりで町を騒がせたその結婚が、初めから不幸だったことなどが、来るたびに彼女の口から話された。美貌で才気もある葉子が、どうして小樽くんだりまで行って、そんな家庭に納まらなければならなかったか。もちろん彼女が郷里で評判のよかった帝大出の秀才松川の、町へ来た時の演説と風貌に魅惑を感じたということもあったであろうが、父が望んでいたような縁につけなかったのは、多分女学生時代の彼女のロオマンスが祟りを成していたものであろうことは、ずっと後になってから、迂闊の庸三にもやっと頷けた。
「私たちを送って来た従兄は、一週間も小樽に遊んでいましたの。