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九州からの帰途 (3月8日 11時)

二度目に大阪を見舞った時には、二月も浸っていたそこのあくどい空気に堪えられないほど、飽き荒んだ笹村の頭は冷やされかけていた。そして静かに思索や創作に耽られるような住居を求めに、急いで東京へ帰った。
笹村は自分の陥ちて来たところが、このごろようやく解って来たような気がした。
「どこかへ行こうか。」
少し残った金を、机の抽斗に入れていた笹村は、船や汽車や温泉宿で独り旅の淋しかったことを想い出していた。
「それから道具を少し買わなけア。家みたいに何にもない世帯もちょっとめずらしいですよ。」
お銀は火鉢に寄りかかりながら部屋を見廻した。
「もし行くなら、一度坊やにお詣りをさせたいから成田さんへ連れて行って下さい。お鳥目がかからないでよござんすよ。」
「あすこなら人に逢う気遣いがないから、それもよかろう。鉱泉だけど、一晩くらい泊るにちょうどいい湯もあるし……」
「いつ行きます。」




