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正月は淋しく過ぎた (3月8日 11時)

気むずかしい笹村の部屋へは、しょうことなしに小さい方を据えた鏡餅の側に、貧相な鉢植えの梅の花弁が干からびて、机の傍は相変らず淋しかった。笹村は大阪にぶらぶら遊んでいた一昨年の今ごろのことが時々思い出された。そこでは新調のインバネスなどを着込んで動きのとれないような道頓堀のあたりを、毎日一人で歩いた。そして芝居や寄席や飲食店のような人いきれのなかへ慕い寄って行った。
 時としては薄暗い、せせこましい路次のあいだに、当てどもなしに彷徨いているその姿が見出されたり、どこへも入りそびれて、思いがけない場末に、人気の少い鶏屋などの二階の部屋の薄白い電燈の下で、淋しい晩飯にありついていたりした。それで懐が淋しくなって来ると、静かな郊外にある、兄の知合いの家に引っ込んで、刺戟に疲れた頭を休めたり、仕事に耽ったりした。

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