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朝の新聞記事に注意 (2月6日 5時)
新聞の商売がたきである或る新聞の社主であり主筆である某が、親佐と葉子との二人に同時に慇懃を通じているという、全紙にわたった不倫きわまる記事だった。だれも意外なような顔をしながら心の中ではそれを信じようとした。
この日髪の毛の濃い、口の大きい、色白な一人の青年を乗せた人力車が、仙台の町中を忙しく駆け回ったのを注意した人はおそらくなかったろうが、その青年は名を木村といって、日ごろから快活な活動好きな人として知られた男で、その熱心な奔走の結果、翌日の新聞紙の広告欄には、二段抜きで、知事令夫人以下十四五名の貴婦人の連名で早月親佐の冤罪が雪がれる事になった。この稀有の大げさな広告がまた小さな仙台の市中をどよめき渡らした。しかし木村の熱心も口弁も葉子の名を広告の中に入れる事はできなかった。
こんな騒ぎが持ち上がってから早月親佐の仙台における今までの声望は急に無くなってしまった。