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若い娘が拝んでいる (4月17日 16時)

娘は十七、八らしい。髪は油気の薄い銀杏がえしに結って、紺飛白の単衣に紅い帯を締めていた。その風体はこの丘の下にある鉱泉会社のサイダー製造にかよっている女工らしく思われた。色は少し黒いが容貌は決して醜い方ではなかった。娘は湿れた番傘を小脇に抱えたままで、堂の前に久しくひざまずいていた。細かい雨は頭の上の若葉から漏れて、娘のそそけた鬢に白い雫を宿しているのも何だか酷たらしい姿であった。わたしは暫く立っていたが、娘は容易に動きそうもなかった。
 堂と真向いの家はもう起きていた。家の軒には桑籠がたくさん積まれて、若い女房が蚕棚の前に襷がけで働いていた。若い娘は何を祈っているのか知らない。若い人妻は生活に忙がしそうであった。
 どこかで蛙が鳴き出したかと思うと、雨はさアさアと降って来た。娘はまだ一心に拝んでいた。栗の花、柿の花、日本でも初夏の景物にはかぞえられていますが、俳味に乏しい我々は、栗も柿もすべて秋の梢にのみ眼をつけて、夏のさびしい花にはあまり多くの注意を払っていませんでした。秋の木の実を見るまでは、それらはほとんど雑木に等しいもののように見なしていましたが、その軽蔑の眼は欧洲大陸へ渡ってから余ほど変って来ました。この頃の私は決して栗の木を軽蔑しようとは思いません。必ず立ちどまって、その梢をしばらく瞰あげるようになりました。

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