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喫茶店モナミ (3月9日 5時)
階下の普請を仕変えたばかりで、電灯の色も浴後の肌のように爽やかだった。客も多からず少からず、椅子、テーブルにまくばられて、ストーヴを止めたあとも人の薀気で程よく気温を室内に漂わしていた。季節よりやや早目の花が、同じく季節よりやや早目の流行服の男女と色彩を調え合って、ここもすでに春だった。客席には喧しい話声は一筋もなく、室全体として静物の絵のしとやかさを保っていた。ときどき店の奥のスタンドで、玻璃盞にソーダのフラッシュする音が、室内の春の静物図に揮発性を与えている。
人を関いつけないときは、幾日でも平気でうっちゃらかしとくが、いざ関う段になるとうるさいほど世話を焼き出す、画描き気質の逸作は、この頃、かの女の憂鬱が気になってならないらしかった。それで間がな隙がな、かの女を表へ連れ出す。