フレデリック 2017/6/10 22:02
ちび 2017/3/7 22:25
テロル 2017/1/16 22:21
提出(ログ) 2016/12/28 22:34
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今日の営業も終了して間もない頃の、ほの暗い店内の中。夕陽の差す席にぼんやりと残っていた巽はそう口にした。言葉の先は、カミーユに真っ直ぐと向かっている。
「それを聞いたとして、何かあるのかな」
「いや、興味本意ですけど」
その場に居合わせ、席を外そうにも思う通り動けないエッカースレイは自分が聞いていて良い内容なのかとそわそわしていて、それを見たカミーユはそっと彼女の傍に立つ。
「いいんだけど、別に。今更隠している訳でも無いし」
彼女の白銀の髪に触れ、またいつもの微笑みで言う。君も聞きたいなら聞いていていいんだよ、そう話す声もいつもの色だった。
「そうだね、俺は――もう何十年になるかな――ずっとこの姿のままだよ。数えるのはもう止めたけど……ああ大丈夫、アンダーグラウンドに来たらこういう身体になるとか、そういう訳じゃないから。君たちは心配しなくてもいいよ」
けれど言い終えた後、空気はどこかひやりと冷たくて。それはカミーユが張り巡らせている予防線が直に肌に触れているようで、今まで知らなかった壁を感じ取りエッカースレイは不安げに彼の顔色を窺う。
「そうですか……じゃあもうひとつ、アンタのこと詮索させてください」
それを気にもせず、巽は人差し指をぴんと伸ばす。いつの間にか髪に触れる手を離していたカミーユはただ、彼女の視線にも気付かず静かに次の言葉を待つことしかしなかった。
「アンタが本当はアリスっていうのは本当なんですか」
「……うん。半分正解、っていうことにしておいてくれないかな」
「半分?」
別に教えたくないとかではないけど。
前置きして話し始めるカミーユは、そう言ってはいても少し苦そうな表情をしている。
自分の領域に踏み込もうとしている巽の真っ直ぐな瞳が、誤魔化しすら見抜こうとするその眼差しが。自分には眩しすぎて、相容れないものであることを物語っていたからだった。
「俺は確かにアリスだったよ。でもね、アリスには一欠片でも夢がある。望みがあるんだ。……俺には、もう無い。だからアリスじゃない。
ただ個人の気持ちの問題だけどね。それだけさ」
その時、どこか自らを嘲るような、自虐のような。いつもと違うそんな笑みを一瞬でも浮かべたことを、顔を見上げていたエッカースレイだけは気付いていた。
どうしてそんな表情を。音を成さない彼女の喉では、その声は息となって儚く消える。
「つまり、何か無くしたってことですか、今でも引っ掛かっているほど大切な――」
「あのね」
いつもよりも強い声色で続きを遮る。それ以上は駄目だという、明確な線引きだった。
「君の探求心は美徳だよ。でもこの世界にいる以上、少しは自重を覚えた方がいい。
教える代わりに対価を、ここには話の後でそう切り出す人間ばかりだよ?」
相手が俺で良かったね。
その笑顔はまた、いつもの柔らかい微笑みだった。
「さあ。『アリス』はもう安全な家へ帰る時間だ」
このあと巽は警察の所へ帰るしカミーユはエッカースレイちゃんを連れて二階の居住スペースへ戻ります。明日からはまたいつも通り。