あ 2017/4/2 0:34
Space KiLLer 2017/4/2 0:26
Space KiLLer 2017/4/2 0:11
ラルトス 2017/3/22 17:14
姉さんが見る夢を、僕も見るようになったのは。姉さんが覚めることのない眠りについて暫くたった日の事だった。 まるで不思議の国のアリスの世界にいるような錯覚に陥る不思議な世界。その世界はまるでテレビのようで、干渉出来なかったぼくは静かに、見ていた。 不思議な植物、異色を放つ空間、そして幸せそうな人々。個性とユーモアが溢れる住民に混じって、一人見覚えのある後ろ姿が見えた。見間違えることはない、僕の姉さん。アリシア姉さんだった。 ふと、姉さんがこうなってしまう前に最近同じ夢を見ると言っていたことを思い出した。 きっと、これは僕が作り出した理想の世界なのだろう、姉さんの言葉に影響され、動いている姉さんを渇望しているからこその夢なのだ。あの人は外で遊ぶことなんて出来なかったから。
目覚めた時、無性にやるせなく、悲しくて、切なくて。もう二度と僕に笑いかける姉さんを見れないことが悔しくて。同時に夢にまで現れる姉さんに、どこか安心していた。僕は今でも姉さんをこれほど想ってる。これはどれだけ時が過ぎても、変わらないことなのだろう。 ベッドに横たわる姉さんはアリスというよりも、眠り姫だろうと失笑する。眠りにつくお姫様は王子様のキスで目覚めるけれど、それはあくまで童話の世界の話だ。現実はそう甘くはなく、姉さんが再び目覚める確率は零に等しいことを、僕も、僕の両親も知っている。 延命装置を切れば姉さんは静かにその命を終えてしまうだろう。自分で生き続ける事もできない可哀想な、姉さん。
もちろん、その日がいつか来てしまうことは、幼い僕でも知っていた。 医者が無償で延命を続けるわけがない、姉さんを一日延命させる事がどれほど大変なのか、僕の両親は夜に苦悶に満ちた表情で話し合っていた。生かすか、殺すか。結論はまだ出ていないようだったがそれは現時点での話であり、一年も、持たないだろう。 僕の家庭はそれほど裕福ではない、今まで姉さんの病気が治ると信じて、僕の両親は必死に働き金を注ぎ込んでいた。もちろんそのことは親として当然の事だとは思う、けれど、今両親を支えていた希望は残酷に、奪われてしまった。
姉さんが死ぬ日。僕らによって殺される日はそう遠くはないだろう。
「ロッテ、大切な話がある。私たち家族のこれからについてだ」
そう、告げられたのは姉さんが目覚めなくなって半年が経った時だった。 生活は困窮し、今すでに僕の父さんは多額の借金を抱えている。親戚に借り、知人に借り。いくら働いてもその金は姉さんへと全て、消えていく。 半年間。父さんも母さんも一度だって弱音は吐かなかった周りの人に白い目で見られようとも、目覚めることがないのだからいっそのこと、と罵られても。必死に姉さんの目覚めを信じて、それだけにすがって生きていた。 けれど、ここがもう限界なのだ。僕達にとって。
殆どの家具を売ってしまった閑散としたリビングで、母さんは泣いていた。 父さんは、僕の肩に震える手を乗せ、驚く程強い力で掴み、僕に頭を垂れた。ぽた、と涙が光って床に落ちる。
「分かって、くれるかい」
この人は、僕の父親はこんなにも小さな人だっただろうか。 目の前で跪き咽び泣く人は、僕の記憶の中の父さんとはまるで別人だ。頬は痩け、頭髪には白髪が混じり、この寒い中薄い服を着ている。ああ、そうか、この人ももう限界なんだ。
「…うん、わかるよ。だって、仕方のない事だから」「…すまない、すまない…」
小さく頷き困ったように笑えば、僕の顔を見た父さんは息をのみ、強く腕を引き抱きしめただただ謝った。 その謝罪は、きっと僕にではない。
母さんの闇夜を裂くような悲しげな泣き声が、一層大きくなる。 僕はただ、父さんに抱きしめられぼんやりと虚空を眺めていた。
大丈夫、わかっている。 仕方のないことなんだ、これしかない。 だって姉さんはずっとずっとずっと、半年間も僕たちの事を放っておいて夢の国で生きているんだ一日たりとも別の世界にはいない現実に戻ってくることはない夢の世界でアリスとして楽しげに過ごしているんだ病気の事も僕たちの事も忘れたみたいに、今まで見せたことがないような暖かい笑顔を見せ子供達と遊びに興じている。そこが、姉さんにとって世界の全てでもう戻ってくることはないのだろう。
「大丈夫、わかってるよ」
小さくつぶやき、僕は虚空に向かって微笑んだ。
わかってるよ、父さん、母さん。 だいじょうぶだよ、姉さん。
姉さんが殺される日は、奇しくも姉さんと僕が生まれた日に決まった。 なんという、偶然なのか、必然なのかわからないが僕にとってその日はとても特別なものだった。
僕は父さんと母さんに無理を言って一日、姉さんのそばにいることを許してもらった。 父さん達も自分の娘が死ぬその日までずっと一緒に居たいだろう、片時も離れたくはないだろう。けれど僕の気持ちを察してくれたのか、一日だけ僕らは二人きりになった。
ただ眠っているかのような姉さん。 病室に響くのは唯一姉さんの生命を感じさせる規則正しく鳴る電子音、ただそれだけだ。
微笑むようにして眠る姉さんの頭を撫でる。さらりとした髪は指の隙間から流れるようにして落ちた。 綺麗に保たれているのも、母さんが欠かさず姉さんの世話を、しているからだろう。そうしなければ姉さんはすぐに、汚れ、人間としての尊厳を失ってしまうのだ。 ほのかに香る石鹸の香りを胸いっぱいに吸い込み、僕は姉さんの隣に寝転んだ。
少し、色が白くて痩せているけれど、起きていた頃と変わりのない美しい姉さん。 僕の、最も大切な人。
「…姉さん」
だって、僕らは誓ったんだ。遥か昔の記憶だけれど、きっと姉さんも覚えているはず。 ずっと一緒、生まれてからも、死ぬときも、僕たちはこの世に生を持った時から片時も離れることは許されない。僕らは、命を二つに分けてこの世界に誕生したのだから。それは当然のことだ。 けれど姉さんは今その約束を破っている、踏みにじっている、ここにいない、体はここにあっても、姉さんの魂はここにはない。あの世界に居るんだ僕の姉さん、姉さんは。
「僕らは双子だ、ずーっと、一緒。そうでしょ?姉さん」
少し伸びた姉さんの前髪を優しく払い、白い額に口ずけを落とす。 姉さんの顔のそばにつく手は震え、心の底からどろりと沸き起こる感情を、僕は必死に耐えた。 姉さん、僕の愛しくて、憎い、姉さん。
ちらりと壁にかかっている時計を見た、時刻は夜の11時55分。僕らの誕生日まであと5分といったとこだろう。 僕は、ポケットの中に隠し持っていた小瓶を取り出した。中には白くて丸い錠剤がぎっしりと詰まっている。 ねえさん、僕の大切なねえさん。
黄色くひんやりとした蓋を開け、一錠つまみ下の上に乗せた。がり、と歯で噛み砕き唾液とともに嚥下する。 一粒一粒、噛み砕くたびに僕の中で家族みんなで過ごした短いけれどとても幸せだった記憶が鮮明に弾けとんだ。
五歳の時の誕生日。姉さんは一時帰宅を許されて家族で誕生日パーティをしたっけ。父さんは姉さんに絵本を買って、僕には飛行機のおもちゃをくれた。 七歳の時。調子が良かった姉さんと病院内でかくれんぼをした。同じ病室の子友達と遊んで楽しかったな。その後は先生とか看護師さんにすごく怒られちゃったけど。 十歳の時の冬は、ああ、そうだった。珍しく大雪が振って、はしゃいだ姉さんは窓をあけてずっと白い雪を見ていて…その次の日風邪をひいて大変だったんだよね。あの時の母さんと父さんの心配そうな顔はわすれられないな。
「…っ…」
気がつけば涙が溢れ、頬を伝って姉さんの顔へと落ちた。 凍えているのか、震える指先で姉さんの頬を撫でたあと、僕は瓶に半分ほど残っている錠剤を一気に飲み込んだ。しばらくして襲う吐き気と頭痛、そして、睡魔。 体のそこが冷える。震える、脳内が白濁し何も、考えられない。
言うことのきかない鉛のような体を持ち上げ、姉さんの傍にある無機質な機械に手を伸ばす。
最後の力を振り絞り、僕はその機械と姉さんが繋がる管を、切った。 突如響く警告音。静かな病室に反響するそれは、姉さんの命の危機をありありと示し出していた。
がくりと腕の力が抜け、姉さんの上に覆いかぶさるようにして倒れた。呼吸が、できない、まぶたがおもい。 とくとく、と感じる姉さんの鼓動、温かみ、ああ、姉さんはまだ生きている。
体内に響くかのような姉さんの音は次第に緩やかになり、そして。
「ねえ、さん…」
だいじょうぶだよ姉さん、姉さんを一人で死なせはしない。僕も一緒に行くよ。だって僕たちは双子なんだ、生まれたときも、死ぬときも一緒。
僕たちは、誰もいない病室で、静かに現実世界に別れを告げた。
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姉さんが見る夢を、僕も見るようになったのは。姉さんが覚めることのない眠りについて暫くたった日の事だった。
まるで不思議の国のアリスの世界にいるような錯覚に陥る不思議な世界。その世界はまるでテレビのようで、干渉出来なかったぼくは静かに、見ていた。
不思議な植物、異色を放つ空間、そして幸せそうな人々。個性とユーモアが溢れる住民に混じって、一人見覚えのある後ろ姿が見えた。見間違えることはない、僕の姉さん。アリシア姉さんだった。
ふと、姉さんがこうなってしまう前に最近同じ夢を見ると言っていたことを思い出した。
きっと、これは僕が作り出した理想の世界なのだろう、姉さんの言葉に影響され、動いている姉さんを渇望しているからこその夢なのだ。あの人は外で遊ぶことなんて出来なかったから。
目覚めた時、無性にやるせなく、悲しくて、切なくて。もう二度と僕に笑いかける姉さんを見れないことが悔しくて。同時に夢にまで現れる姉さんに、どこか安心していた。僕は今でも姉さんをこれほど想ってる。これはどれだけ時が過ぎても、変わらないことなのだろう。
ベッドに横たわる姉さんはアリスというよりも、眠り姫だろうと失笑する。眠りにつくお姫様は王子様のキスで目覚めるけれど、それはあくまで童話の世界の話だ。現実はそう甘くはなく、姉さんが再び目覚める確率は零に等しいことを、僕も、僕の両親も知っている。
延命装置を切れば姉さんは静かにその命を終えてしまうだろう。自分で生き続ける事もできない可哀想な、姉さん。
もちろん、その日がいつか来てしまうことは、幼い僕でも知っていた。
医者が無償で延命を続けるわけがない、姉さんを一日延命させる事がどれほど大変なのか、僕の両親は夜に苦悶に満ちた表情で話し合っていた。生かすか、殺すか。結論はまだ出ていないようだったがそれは現時点での話であり、一年も、持たないだろう。
僕の家庭はそれほど裕福ではない、今まで姉さんの病気が治ると信じて、僕の両親は必死に働き金を注ぎ込んでいた。もちろんそのことは親として当然の事だとは思う、けれど、今両親を支えていた希望は残酷に、奪われてしまった。
姉さんが死ぬ日。僕らによって殺される日はそう遠くはないだろう。
「ロッテ、大切な話がある。私たち家族のこれからについてだ」
そう、告げられたのは姉さんが目覚めなくなって半年が経った時だった。
生活は困窮し、今すでに僕の父さんは多額の借金を抱えている。親戚に借り、知人に借り。いくら働いてもその金は姉さんへと全て、消えていく。
半年間。父さんも母さんも一度だって弱音は吐かなかった周りの人に白い目で見られようとも、目覚めることがないのだからいっそのこと、と罵られても。必死に姉さんの目覚めを信じて、それだけにすがって生きていた。
けれど、ここがもう限界なのだ。僕達にとって。
殆どの家具を売ってしまった閑散としたリビングで、母さんは泣いていた。
父さんは、僕の肩に震える手を乗せ、驚く程強い力で掴み、僕に頭を垂れた。ぽた、と涙が光って床に落ちる。
「分かって、くれるかい」
この人は、僕の父親はこんなにも小さな人だっただろうか。
目の前で跪き咽び泣く人は、僕の記憶の中の父さんとはまるで別人だ。頬は痩け、頭髪には白髪が混じり、この寒い中薄い服を着ている。ああ、そうか、この人ももう限界なんだ。
「…うん、わかるよ。だって、仕方のない事だから」
「…すまない、すまない…」
小さく頷き困ったように笑えば、僕の顔を見た父さんは息をのみ、強く腕を引き抱きしめただただ謝った。
その謝罪は、きっと僕にではない。
母さんの闇夜を裂くような悲しげな泣き声が、一層大きくなる。
僕はただ、父さんに抱きしめられぼんやりと虚空を眺めていた。
大丈夫、わかっている。
仕方のないことなんだ、これしかない。
だって姉さんはずっとずっとずっと、半年間も僕たちの事を放っておいて夢の国で生きているんだ一日たりとも別の世界にはいない現実に戻ってくることはない夢の世界でアリスとして楽しげに過ごしているんだ病気の事も僕たちの事も忘れたみたいに、今まで見せたことがないような暖かい笑顔を見せ子供達と遊びに興じている。そこが、姉さんにとって世界の全てでもう戻ってくることはないのだろう。
「大丈夫、わかってるよ」
小さくつぶやき、僕は虚空に向かって微笑んだ。
わかってるよ、父さん、母さん。
だいじょうぶだよ、姉さん。
姉さんが殺される日は、奇しくも姉さんと僕が生まれた日に決まった。
なんという、偶然なのか、必然なのかわからないが僕にとってその日はとても特別なものだった。
僕は父さんと母さんに無理を言って一日、姉さんのそばにいることを許してもらった。
父さん達も自分の娘が死ぬその日までずっと一緒に居たいだろう、片時も離れたくはないだろう。けれど僕の気持ちを察してくれたのか、一日だけ僕らは二人きりになった。
ただ眠っているかのような姉さん。
病室に響くのは唯一姉さんの生命を感じさせる規則正しく鳴る電子音、ただそれだけだ。
微笑むようにして眠る姉さんの頭を撫でる。さらりとした髪は指の隙間から流れるようにして落ちた。
綺麗に保たれているのも、母さんが欠かさず姉さんの世話を、しているからだろう。そうしなければ姉さんはすぐに、汚れ、人間としての尊厳を失ってしまうのだ。
ほのかに香る石鹸の香りを胸いっぱいに吸い込み、僕は姉さんの隣に寝転んだ。
少し、色が白くて痩せているけれど、起きていた頃と変わりのない美しい姉さん。
僕の、最も大切な人。
「…姉さん」
だって、僕らは誓ったんだ。遥か昔の記憶だけれど、きっと姉さんも覚えているはず。
ずっと一緒、生まれてからも、死ぬときも、僕たちはこの世に生を持った時から片時も離れることは許されない。僕らは、命を二つに分けてこの世界に誕生したのだから。それは当然のことだ。
けれど姉さんは今その約束を破っている、踏みにじっている、ここにいない、体はここにあっても、姉さんの魂はここにはない。あの世界に居るんだ僕の姉さん、姉さんは。
「僕らは双子だ、ずーっと、一緒。そうでしょ?姉さん」
少し伸びた姉さんの前髪を優しく払い、白い額に口ずけを落とす。
姉さんの顔のそばにつく手は震え、心の底からどろりと沸き起こる感情を、僕は必死に耐えた。
姉さん、僕の愛しくて、憎い、姉さん。
ちらりと壁にかかっている時計を見た、時刻は夜の11時55分。僕らの誕生日まであと5分といったとこだろう。
僕は、ポケットの中に隠し持っていた小瓶を取り出した。中には白くて丸い錠剤がぎっしりと詰まっている。
ねえさん、僕の大切なねえさん。
黄色くひんやりとした蓋を開け、一錠つまみ下の上に乗せた。がり、と歯で噛み砕き唾液とともに嚥下する。
一粒一粒、噛み砕くたびに僕の中で家族みんなで過ごした短いけれどとても幸せだった記憶が鮮明に弾けとんだ。
五歳の時の誕生日。姉さんは一時帰宅を許されて家族で誕生日パーティをしたっけ。父さんは姉さんに絵本を買って、僕には飛行機のおもちゃをくれた。
七歳の時。調子が良かった姉さんと病院内でかくれんぼをした。同じ病室の子友達と遊んで楽しかったな。その後は先生とか看護師さんにすごく怒られちゃったけど。
十歳の時の冬は、ああ、そうだった。珍しく大雪が振って、はしゃいだ姉さんは窓をあけてずっと白い雪を見ていて…その次の日風邪をひいて大変だったんだよね。あの時の母さんと父さんの心配そうな顔はわすれられないな。
「…っ…」
気がつけば涙が溢れ、頬を伝って姉さんの顔へと落ちた。
凍えているのか、震える指先で姉さんの頬を撫でたあと、僕は瓶に半分ほど残っている錠剤を一気に飲み込んだ。しばらくして襲う吐き気と頭痛、そして、睡魔。
体のそこが冷える。震える、脳内が白濁し何も、考えられない。
言うことのきかない鉛のような体を持ち上げ、姉さんの傍にある無機質な機械に手を伸ばす。
最後の力を振り絞り、僕はその機械と姉さんが繋がる管を、切った。
突如響く警告音。静かな病室に反響するそれは、姉さんの命の危機をありありと示し出していた。
がくりと腕の力が抜け、姉さんの上に覆いかぶさるようにして倒れた。呼吸が、できない、まぶたがおもい。
とくとく、と感じる姉さんの鼓動、温かみ、ああ、姉さんはまだ生きている。
体内に響くかのような姉さんの音は次第に緩やかになり、そして。
「ねえ、さん…」
だいじょうぶだよ姉さん、姉さんを一人で死なせはしない。僕も一緒に行くよ。だって僕たちは双子なんだ、生まれたときも、死ぬときも一緒。
僕たちは、誰もいない病室で、静かに現実世界に別れを告げた。
っていうわけでアリスもロッテも死んでましたヽ(*´∀`)ノ
アリスは知らないですけどね、ずっと自分が病院で寝てると思い込んでますが、現実のアリスは死んでいます。っていうかロッテが間接的に殺し、ロッテは自殺しましたヽ(*´∀`)ノ